西国1番 那智山〈文政8年〉

文政8年『神社仏閣順拝帳』
西国1番 那智山 熊野十二所権現・如意輪堂
紀伊国牟婁郡市野々村(和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山)

西国1番那智山の納経

江戸時代以前の西国霊場第一番札所は那智山の如意輪堂(圓通殿)でした。如意輪堂が青岸渡寺として独立した寺院となるのは明治以降のことです。

かつての那智山は熊野十二所権現を中心として、如意輪堂、瀧本飛瀧権現(飛瀧神社)、山上不動堂(現・廃寺)、如法道場(現・廃寺)、御師の実方院・尊勝院(いずれも廃寺)など多数の社や仏堂・坊舎からなる神仏習合の一大霊場で、本宮・新宮とともに熊野三山の一角を形成していました。

その歴史は那智の大瀧に対する古代信仰から始まったと考えられています。

伝承によれば、仁徳天皇の御代、インドから渡来した裸形上人が熊野十二所権現を勧請して那智山を開いたとされます。あるいは、熊野那智大社の社伝では、神武天皇が東征の途次、那智の山が光り輝くのを見て大瀧を探り当て、神としてお祀りされたとします。

熊野十二所権現とは、熊野三山の主祭神である家都御子大神(本宮)・熊野速玉大神(新宮)・熊野夫須美大神(那智)の三所権現に五所王子・四所明神を合わせた12の権現です。元は独立した霊場として誕生した熊野三山は、互いにそれぞれの主祭神を含む十二所権現を祀ることにより、一種の宗教的連合を形成するようになったわけです。

平安後期になると熊野三山への信仰が高まりました。皇室の崇敬も篤く、特に後白河法皇は34回、後鳥羽上皇は29回も参詣されています。鎌倉時代になると庶民にも広がり、「蟻の熊野詣で」といわれるほど盛んになりました。

如意輪堂については、裸形上人が那智の大瀧で修行をされた時に8寸の観世音菩薩像を感得し、草庵を結んで安置したことに始まると伝えられます。推古天皇の御代、大和の生佛上人が1丈(約3m)の如意輪観音の像を刻んで裸形上人感得の観音像を胎内に納め、本堂を建立して勅願所としたといいます。

花山法皇が那智山に参籠されているときに熊野権現のお告げを受け、三十三所の観音霊場を巡礼・再興しました。それで那智山が西国三十三所の第一番札所に定められたとされます。

天正9年(1581)の兵火で一山焼失し、現在の建物はその後の再建です。

那智山

那智山『紀伊国名所図会(西国三十三所名所図会)』国会図書館蔵

如意輪堂(青岸渡寺本堂)は天正18年(1590)豊臣秀吉による再建で、重要文化財に指定されています。十二所権現(熊野那智大社)の社殿については、天正の兵火の後に再建され、嘉永年間(1848~54)に改修されたとする資料と再建されたとする資料があり、どちらが正確なのか確認できませんでした。改築と言っていいほどの大改修だったのかもしれません。

明治の神仏分離により、熊野三山の仏堂はすべて廃されましたが、如意輪堂は破却を免れ、本尊の如意輪観音は村内の宝泉寺に遷されました。明治7年(1874)信者の手によって旧堂が再興され、翌8年(1875)青岸渡寺が創建されました。

江戸時代の納経帳では、熊野十二所権現(熊野那智大社)と如意輪堂(青岸渡寺)の納経が一つになっています。

那智山の納経

西国1番那智山の納経

順拝帳を見ると、墨書部分は右から順に

「奉納経」
「熊野十二宮」
「円通大士殿」
「執行」「実方院」「執事」

「円通大士」は観世音菩薩のことで、「円通大士殿」は如意輪堂を指します。当時は「円通殿」とも呼ばれていたのでしょう。「熊野十二宮」は言うまでもなく十二所権現を祀る本殿です。

実方院は那智山の御師(宿坊)の中でも大きな勢力を有し、江戸時代には尊勝院とともに那智山東西二座の執行職を勤めました。実方院を相続した米良氏は熊野別当湛増の後裔とされます。明治の初めに米良氏が還俗し、現在、跡地は「中世行幸啓御泊所跡実方院」として和歌山県の史跡に指定されています。

私の見た限りでは、江戸時代の那智山の納経はもっぱら実方院が担当していたようです。(例:文化10年の納経帳

中央の朱印は「西國第一番札所」、右上は「日本第一熊野那智山」、左下は判読しづらいのですが「道定」のようです。

「道定」の印について、実方院の米良氏は代々「道」を用いていたようで、ネットで検索してみると、熊野那智大社文書の宝永5年(1708)『六月会扇骨仕様覚』に「 東座時執行 実方院道定」の名が見えます。太郎助の参拝より100年以上前なのですが、関連があるのでしょうか。

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那智山の概要

那智山 熊野十二所権現(くまの じゅうにしょごんげん)
現名称:熊野那智大社
御祭神:熊野夫須美大神
創建年代:伝・仁徳5年(317)
鎮座地:紀伊国牟婁郡市野々村(和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山)
社格等:旧官幣中社 別表神社
http://www.kumanonachitaisha.or.jp/

那智山 如意輪堂(にょいりんどう)
現名称:那智山 青岸渡寺
御本尊:如意輪観世音菩薩
創建年代:仁徳天皇の御代
開基:裸形上人
所在地:紀伊国牟婁郡市野々村(和歌山県東牟婁郡那智勝浦町那智山)
宗派等:天台宗

文政8年『神社仏閣順拝帳』
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