浄土真宗と御朱印(4)

御旧跡巡拝帳

寛政2年(1790)『御旧跡巡拝帳』

本願寺派・大谷派を含む浄土真宗の御朱印の歴史は江戸時代にまでさかのぼります。二十四輩や越後七不思議など、古くからの巡拝コースがあることを考えれば不思議ではないのですが。

ともかく論より証拠で、実例を見ていきたいと思います。

私の手許には、江戸時代の真宗の順拝帳が2冊あります。いずれも寛政年間のものです。

他宗派であれば「納経帳」と呼ぶべきところですが、真宗では納経をしませんので不適当です。そこで、手許にある2冊のうちの1冊のタイトルを採用して「順拝帳」と呼ぶことにします。

1冊目は寛政2年(1790)のもので、表紙に『御旧跡順拝帳』とタイトルがあります。主として信濃から北陸道が中心で、近江・伊勢・摂津・陸奥の寺院もあります。本願寺派4、大谷派12(現・単立含む)、高田派1、興正派1、山元派1で計19ヶ所です。

その中から本願寺派、大谷派のものをいくつか紹介したいと思います。

大雲寺の御判

大谷派、越後国頸城郡外波村(新潟県糸魚川市外波)の飛龍山大雲寺。北陸道の難所として名高い親不知にあります。親鸞聖人が越後に流された折、親不知の難所を立竦(たちすくみ)如来の導きによって渡り、その霊験に驚いた大文字屋右近太夫夫妻によって開かれたと伝えられます。

金沢西別院の御判

本願寺派、西本願寺の金沢御坊、現在の金沢別院。中央に「御坊 役所」とあります。西本願寺は「役所」または「兼帯所」、東本願寺は「掛所(懸所)」を使うので区別ができます(前回紹介した戦前の金沢西別院の御朱印にも「役所」の印がありました)。印は黒印で、二つとも書体は判読が難しい九畳篆、上は「金澤■刹」のようですが、よくわかりません。

吉崎御坊・願慶寺の御判

大谷派、越前国坂井郡吉崎浦(福井県あわら市吉崎)の吉崎御坊・願慶寺。吉崎御坊は、蓮如上人が比叡山の迫害をのがれ、北陸布教の拠点としたところです。また、肉付きの面の伝説で有名です。吉崎には東西両方の別院がありますが、「本願寺掛所」とあるところから、大谷派のほうであることがわかります。

もう1冊は寛政7年(1795)のものですが、表紙がなくなっています。大半が近江から北陸道のもので、山城のものがいくつかあります。本願寺派18、大谷派25(現・東本願寺派を含む)、仏光寺派1、木辺派1、出雲路派1、誠照寺派1、その他4(真言宗2、浄土宗1、神社1)で合計51ヶ所。

こちらも本願寺派、大谷派のものを紹介します。

福井西御坊・福井東御坊の御判

越前国福井城下(福井県福井市)、東御坊(右、大谷派、現在の東別院)と西御坊(左、本願寺派、現在の西別院)。大谷派は「本願寺懸所」、本願寺派は「本願寺役所」となっています。

長浜御坊・大通寺の御判

大谷派、近江国坂田郡長浜町(滋賀県長浜市)の長浜御坊(現在の長浜別院)。正式には無礙智山大通寺で、中央の黒印は「大通」、右上の印は「龍谷山懸所」。龍谷山は本願寺の山号です。

山科東御坊・長福寺の御判

大谷派、山城国宇治郡竹鼻村(京都市山科区竹鼻サイカシ町)の山科御坊(現在の山科東別院)長福寺。2行目に「本願寺懸所」とあります。

山科西御坊・舞楽寺の御判

こちらは本願寺派の山科御坊(現在の山科西別院)舞楽寺、山城国宇治郡東野村(京都市山科区東野狐藪町)。2行目に「本願寺兼帯所」とあります。

寿経寺の御判

戦前の御朱印でも紹介した、加賀国江沼郡山中村(石川県加賀市山中温泉湯の出町)の無量山寿経寺。

以上は真宗の門徒のものと思われる巡拝帳からですが、数は少ないものの、六十六部の納経帳にも真宗の寺院のものが見られます。

板敷山御坊・正行寺と雲巌寺の納経印

文政7年(1824)の六十六部の納経帳、左ページが常陸国新治郡大増村(茨城県石岡市大増)の板敷山御坊・正行寺(現在の板敷山大覚寺、本願寺派)。親鸞聖人の弟子・周観大覚によって開創された大覚寺を淵源とし、親鸞聖人法難の地としても有名です。戦国時代に衰退し、江戸時代になって復興しようとしましたが幕府の許しを得られず、武蔵国から正行寺の寺基を移す形で再建。明治18年(1885)大覚寺の旧号に復しました。なお、右ページは下野国那須郡雲巌寺村(栃木県大田原市雲巌寺)の東山雲巌寺(臨済宗妙心寺派)。

吉崎東御坊と谷汲山の納経

弘化4年(1847)六十六部の納経帳、左ページが越前国坂井郡吉崎浦(福井県あわら市吉崎)の吉崎御坊(現在の吉崎西別院)。「本願寺兼帯所」とありますので、本願寺派(西)であることがわかります。なお、右ページは西国33番の谷汲山華厳寺。

以上、真宗の御朱印が江戸時代にまでさかのぼることが明らかになっただろうと思います。

ところで、江戸時代の真宗の巡拝帳を見ると、他宗には見られない特徴があります。次回はそのあたりについて、もう少し検討したいと思います。

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