浄土真宗と御朱印(6)

誓願寺の御判

近江国浅井郡内保村(滋賀県長浜市内保)の湯吹山誓願寺の御判。

前回に続いて、江戸時代の他宗の納経帳とは異なる、真宗の順拝帳の特徴から、浄土真宗と御朱印について考えてみたいと思います。

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参拝記念としての意味合いが強い

第二の特徴は、本尊の名を入れた例が一つもないことです。江戸時代の納経印は、他宗でも本尊名を書かない例もありますのが、皆無というのは重要な特徴といえるでしょう。

弘願寺・長楽寺

こちらは寛政7年(1795)真宗の順拝帳、右は加賀国河北郡加賀爪村(石川県河北郡津幡町加賀爪)の鳥越山弘願寺(東本願寺派、元は大谷派)、左は同郡倶利伽羅村(同町倶利伽羅)の倶利伽羅山長楽寺(真言宗、現在の倶利伽羅不動寺)。

現在、御朱印は御本尊・御祭神の御心が込められたもの、いわば神仏の分身という位置づけが確立しています。

これは、朱印自体が御本尊・御祭神を象徴する意味を持つということもありますが、特に寺院の御朱印において、御本尊の名前を書くのが主流になっているということも根拠になっていると思います(一部寺院の「大悲殿」「大雄宝殿」等の堂の名や、神社に多い社号の墨書は、それによって御本尊・御祭神を象徴していると考えられます)。

その傾向は、すでに享保10~12年(1725~27)の納経帳に見られるのですが、浄土真宗の順拝帳には、御本尊の名はおろか、「南無阿弥陀仏」の名号など、御本尊を象徴するような内容は一切見られません。

第三の特徴は、第二の特徴とも関連しますが、寺の由緒や寺宝に関する内容が多いということです。由緒に関しては他宗派でも旧い納経印に見られなくはないですが、寺宝に関しては他宗派には見られない、真宗独特の内容といえるでしょう。

例えば、先に挙げた鳥越山弘願寺の場合、中央に「加州鳥越山弘願寺御堂」、右に「当院開基者本願寺御代三世覚如上人之御舎弟玄頓僧都也」と寺の由緒に関する内容があります。さらに左には「宝物略之(宝物はこれを略す)」とあり、本来は寺宝についても書くべきと考えられていたことを伺わせます。

金森御坊・善龍寺の御判

こちらは近江国野洲郡金森村(滋賀県守山市金森町)の金森御坊・善立寺(当時は「善龍寺」と書いたようです)。

右から順に「江州金森御坊」「蓮如上人御旧跡」「道西坊古跡也」(以上、由緒に関する内容)、「善龍寺」(寺の名前)、「霊宝略之」(寺宝に関する内容…省略)とあります。

西照寺の御判

宝物についても具体的な記述がある例。加賀国能美郡小松町(石川県小松市大川町)の弓波山西照寺。

右から順に「加賀国小松」(所在地)、「蓮如上人御旧跡」(由緒)、「蓮如上人七拾■御真■御詠歌御掛物」「同上人御数珠幷御遺骨」「祖師蓮師連座之御御影」「其他霊宝数多略之」(以上、寺宝に関する内容)、弓波山西照寺(寺号)。

蓮如上人の歌の掛け軸、数珠、御遺骨、親鸞聖人と蓮如上人が並んだ肖像画などの寺宝があったことがわかります。

一番上の、湯福山誓願寺の御判も由緒・寺宝からなる典型的な例と言えるでしょう。

以上のような内容から見て、江戸時代の真宗の順拝帳は、六十六部による納経の証明から始まり、神仏の御心が込められたものという位置づけがなされるようになった他宗派の納経帳とはかなり性質の異なるものということがわかります。

『御旧跡順拝帳』の名が示すように、本願寺派・大谷派の門徒の間では親鸞聖人や蓮如上人を慕って、その旧跡を巡拝する人が多かったようです。越後の七不思議や二十四輩はその代表的なものなのでしょう。真宗以外の大寺院でも、親鸞聖人の特別な御影やゆかりの品を奉安しているところがありますが、それらも門徒の参拝を期待してのことだと思われます。

真宗の順拝帳は、そういう門徒の巡拝者に対する参拝記念として記帳するところから始まったと考えられます。形式は六十六部の納経帳の影響を受けているにせよ、敢えて納経に関する文言を入れないことを見ても、明らかに納経の伝統とは異なることを意識しています。由緒や寺宝に関する記述があるのも、旧跡を巡拝する門徒にとって、それが最大の関心事であろうことを考えると不思議ではありません。

つまり、真宗の御朱印の起源は六十六部の納経帳ではなく、親鸞聖人や蓮如上人の旧跡巡拝の参拝記念から始まっているわけです。納経等の文言を入れないのも、納経の証しとしていただく他宗派の納経帳との意識的な差別化の産物でしょう。神仏分離が行われた神社で納経に関する文言を入れなくなったのは、もしかすると真宗の影響かもしれません。

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