一品吉備津宮〈文政8年〉

文政8年『神社仏閣順拝帳』
吉備津宮
備中国賀陽郡宮内村(岡山市北区吉備津)

一品吉備津宮の納経

四国八十八ヶ所の巡拝を終えた太郎助は、瀬戸内海の対岸、備中国一宮の吉備津宮に参拝しています。

善通寺からのルートは、多度津または丸亀から下津井港に渡り、庭瀬を経て吉備津神社(吉備津宮)に至る吉備津金毘羅往来を使ったものと思われます。

善通寺の参拝が4月8日、吉備津宮の参拝が4月12日になっていますが、この間の移動にそれほど時間がかかるとは思えませんので、納経はしていませんが、金毘羅大権現(現在の金刀比羅宮)や瑜伽大権現(現在の由加神社・蓮台寺)に参拝したのかもしれません。あるいは四国を回り終えてゆっくり一休みしたのでしょうか。

吉備津神社はもともと吉備国の総鎮守でしたが、吉備が三国に分割されたことにより備中国の一宮となり、備前国と備後国に御分霊が勧請されてそれぞれの一宮になったとされています(岡山市北区の備前国一宮・吉備津彦神社と福山市新市町の備後国一宮・吉備津神社)。

江戸時代までは吉備津宮、一品吉備津宮、吉備津大明神、備中国一宮大明神などと呼ばれていました。

主祭神は大吉備津彦命で、若日子建吉備津日子命(わかひこたけきびつひこのみこと)、吉備武彦命(きびたけひこのみこと)など一族の神々を相殿に祀ります。神社の背後にある吉備中山には大吉備津彦命の墓とされる中山茶臼山古墳があります。

大吉備津彦命は孝霊天皇の第三皇子で、元の名を五十狭芹彦命(いさせりひこのみこと)といいました。崇神天皇10年(B.C.88) 四道将軍の一人として山陽道に派遣され、吉備国を平定しました。吉備臣はその子孫とされます。

神社の創建年代については不詳ですが、大吉備津彦命の五代目の孫にあたる加夜臣奈留美(かやのおみ なるみ)命が祖神として大吉備津彦命を祀ったとも、若日子建吉備津日子命の三代目の孫である稲速別命・御友別命・鴨別命が社殿を造営した、あるいは仁徳天皇が当地に行幸した時に創建した等の伝承があります。

古くから朝廷の崇敬篤く、承和14年(847)従四位下を授けられたのに始まり、翌嘉祥元年(848)従四位上、仁寿2年(852)に四品の品位(ほんい)を授かりました。天安元年(857)三品、貞観元年(859)二品に進み、天慶3年(940)海賊平定の祈祷により一品(いっぽん)を奉授されています。『梁塵秘抄』には「一品聖霊吉備津宮」の名が見えます。

中世には武家の尊崇を受け、社殿の造営や神領の寄進が度々ありました。吉備津造(比翼入母屋造)の本殿は足利義満の発願により応永32年(1425)に完成したもので、拝殿とともに国宝に指定されています。

江戸時代には徳川将軍より朱印領160石が寄せられ、そのお礼として社家頭が8年に一度江戸城へ参勤し、祈祷の御祓箱を献上しました。江戸時代の半ばに神仏分離が行われ、境内から三重塔などの仏教色が排されました。

明治4年(1871)国幣中社に列格し、吉備津神社と称するようになりました。大正4年(1914)官幣中社に昇格。

ところで、吉備津宮の神階は一品だったことから、一品吉備津宮(いっぽん きびつぐう)とも称されました。太郎助の順拝帳も「一品吉備津宮」となっています。

全国の神々に授けられた神階は人臣に授けられた位階と同じ仕組みになっており、主に文位(位階、従六位下~正一位)が授けられましたが、武位(勲位・勲等、勲十二等~勲一等)、品位(四品~一品)を授けられた神もあります。

品位は親王・内親王に授けられるもので、吉備津宮の他は宇佐神宮の八幡神・八幡比咩神や伊弉諾神宮の伊佐奈岐神などごくわずかな例しかありません。

吉備津宮の納経

一品吉備津宮の納経

順拝帳を見ると、すでに神仏分離が行われていたため、別当寺院ではなく社家が対応しています。墨書部分は右から順に

「備中国」
「一宮」「名神太」
「一品吉備津宮」
「文政八乙酉年四月十二日」
「勤番所」

「名神太」は「名神大社」のことでしょう。

中央に朱印はありません。右上の印は鎮座地の「吉備中山」、左下の印は「当番社司」。

吉備津宮には社家頭に率いられた70余家の社家が奉仕していました。「勤番所」の署名や「当番社司」の印から、これらの社家が順番に勤番所に詰めて対応していた様子がうかがえます。

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吉備津宮の概要

吉備津宮(きびつぐう)
現名称:吉備津神社
御祭神:大吉備津彦命
創建年代:不詳
鎮座地:備中国賀陽郡宮内村(岡山市北区吉備津)
社格等:式内社(名神大社)、備中国一宮、旧官幣中社、別表神社
http://kibitujinja.com/

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